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糖尿病網膜症


①病態と原因

 みなさんもよく耳にすることがあると思います糖尿病ですが、糖尿病と眼の関係性についてここでご説明します。そもそも糖尿病には、3大合併症と言われる症状があります。糖尿病神経症、糖尿病網膜症、糖尿病腎症がそれにあたり、糖尿病発症後数年後以降に症状が現れます。糖尿病神経症が合併症の中では、最も早く出てくるもので、手足のしびれや麻痺、自律神経障害などがその症状です。糖尿病腎症は、血液中の老廃物をろ過するはずの腎臓の機能が徐々に低下していき最終的に悪化をたどると、人工透析が必要となってしまいます。

 本題にもどり、糖尿病網膜症に関してです。食事から摂取されるエネルギー(ブドウ糖)が過剰だと、血液中のブドウ糖(血糖)が常に高い状態となります。本来、ブドウ糖は体を動かすエネルギーとなるもので、血液中から細胞に取り込まれ、筋肉や臓器で使われる必要不可欠なものです。ですが、血液中の糖分が高い状態が続くと、細胞内にうまく取り込むことができなくなります。やがて血管にも障害が及び、詰まりやすくなったり出血しやすくなったりします。網膜にある血管は非常に細い血管なので、特に障害を受けやすいのです。網膜の血流が悪くなると、その血流からの酸素が欲しい網膜は、もっと酸素がもらえるよう新しい血管を作るように働きかけます。この結果作られた血管を『新生血管』と言います。新しい血管ができたのだからそれで解決すると思われがちですが、この新生血管は、構造上もろく、すかすかな血管です。このため、出血しやすかったり、本来血管から漏れ出ないものが網膜中に漏えいしていき、様々な症状を引き起こします。

 このような血流障害の変化をとらえるために、蛍光眼底造影検査を施行します。この検査では、造影剤(フルオレセイン)というお薬を点滴で注射し、特殊な波長の光をあてることで網膜の血流状態を把握できます。糖尿病の進行度を判断する上で必須の検査です。



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②症状

 糖尿病網膜症の初期には、自覚症状がまったくありません。中期、末期にかけて徐々に視力低下、かすみ目などの症状がでてきます。白内障も進行しやすくなります。さらに悪化していくと、硝子体出血(硝子体に向かって伸びた新生血管の破たんによる)や緑内障(新生血管が線維柱体に目詰まりをおこしてしまうことによる:緑内障の項参照)や網膜剥離(増殖膜という線維性の膜が網膜上に形成され、それが収縮する際、網膜を牽引し剥がれてしまう)などの合併症を引き起こし最終的には失明してしまうこともあります。現在、中途失明の原因の第2位が糖尿病網膜症で年間3000人の方が失明に至ると言われています。ですから、症状として現れる前から定期的な診察、加療が重要です。糖尿病を疑われたら、必ず眼底検査を受けて頂くことをお勧めします。

糖尿病黄斑浮腫

 物を見るための中心的役割を果たす黄斑付近の血管からお水が漏れだし、黄斑が水浸しになってしまいます。この状況になると、視力が低下していきます。そのままでは、水は引かず、むくみが治らないため治療が必要になります。



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③治療

初期(単純網膜症)

 この時点では眼科的には治療の必要なく経過観察となります。内科の先生との血糖コントロールがとにかく大事です。必ず定期検査を受けてください。

●糖尿病黄斑浮腫
 黄斑のむくみを軽減する効果のお薬を注射します。ステロイド薬を硝子体中や眼球壁(テノン嚢下)にそって注射をしたり、抗VEGF薬という血管からの血液や血液成分の漏れを抑制する薬を眼内に注射します。レーザー治療や硝子体手術も選択肢の1つです。

中期(増殖前網膜症

 この時期になると、適切な時期にタイミングを逃さず適切な治療を受けて頂くことが必要になります。レーザー治療や場合により硝子体手術を行います。

●網膜光凝固術(レーザー治療)

 外来で行う治療です。特殊な波長のレーザー光線をあてることで網膜をやけど(光凝固)させるような治療になります。目的としては、新生血管の発生予防目的に行います。網膜症の進行具合によってレーザーの照射範囲は異なりますが、進行している場合は、汎網膜光凝固といい、黄斑を除いて網膜全体を数回にわけてレーザー治療をします。正常な網膜にレーザーを数100発から2000発以上照射し、その部位を機能させなくすることで網膜全体の酸素需要量を減らします。これが新生血管予防につながります。例えていいますと、網膜全体の酸素需要量を100とします。これに対し、正常な網膜血管であれば100を供給できます。しかし糖尿病網膜症が進行し血流が悪くなると供給量が減ってしまいます。ここで50しか供給ができなくなったと仮定します。すると残りの50は酸素が足らず網膜が酸欠の状態になります。この状況を打破するべく新生血管が発生し代償しようとするのですが、これがうまくいきません。ここでレーザー治療を行い網膜の半分をやけどさせ、機能しなくすると網膜の酸素需要量は50になります。これでバランスが取れるようになります。

 レーザー治療は、見え方に影響が少ない周辺の方から行い、ものを見るための中心的役割をする黄斑を温存します。言い換えると、レーザー治療というのは、決して見やすくするための治療ではなく、これ以上悪化させないための守りの治療なのです。ですから、自覚症状のない時期から、きちんとした治療を受け血糖コントロールをして頂くことが、『超』重要なのです。

 糖尿病網膜症は、自覚症状がない時期がゆっくりと数年続いた後、一気に病態が悪化することが多く、悪くなり始めたら、いくら治療をしても血糖値が改善したとしても病気の勢いを止められないことがあります。眼科医の立場としても、心苦しいところです。とにかく予防を心がけましょう!

末期(増殖網膜症)

 新生血管が破たんした結果おこる硝子体出血や増殖膜に起因した増殖硝子体網膜症,さらに悪化した結果おこる牽引性網膜剥離に対して、硝子体手術を行います。

硝子体手術(日帰り硝子体手術の項参照)
 “くろめ”と“しろめ”の境目付近に0.5mmほどの孔を3ヶ所あけて、照明器具、吸引用カッター、眼球内還流液ポートを挿入し、目の中の出血や増殖組織を取り除いたり、剥離した網膜を元に戻したりします。顕微鏡を用いて細かな操作の連続となるため、眼科領域では高度なレベルの手術となります。


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