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網膜静脈閉塞症


①病態と原因

 病名のとおり、網膜の静脈がつまってしまう病気です。静脈閉塞が起きる部位の違いで病状に大きな差が出ます。
 心臓から送り出された血液は、“めだま”の後方から神経といっしょに眼内に入り、網の目のように網膜全体に枝分かれします。この神経と血管が眼内に入る部位を視神経乳頭といいます。網膜全体に行きわたった血液は、静脈となり心臓に向かって戻っていきます。眼内では、視神経乳頭の部位で1本となるように集束します。静脈の枝の部分で閉塞した場合を『網膜中心静脈分枝閉塞症』といい、視神経乳頭部の根本で静脈が閉塞した場合を『網膜中心静脈閉塞症』といいます。一般的にこの病気は、中高年の方に起きやすく、高血圧や動脈硬化が関係することがほとんどです。

❶網膜中心静脈分枝閉塞症
先ほどご説明したように、網膜の静脈の一部分(枝の部分)だけが、閉塞してしまう状態です。
 網膜内で動脈と静脈が交叉する際、その部位はお互い血管の壁の一部を共有しています。ここで動脈硬化が起きてくると、動脈は、内腔が狭く硬くなります。すると、もともと動脈に比べて血管の壁が薄い静脈は、動脈に圧迫されて流れが悪くなってしまします。さらには、静脈内腔の狭さや停滞した血流が引き金となり血栓(血のかたまり)が形成され、完全に閉塞してしまうと、行き場を失った心臓に戻れない血液が、閉塞部より末梢側で眼底出血を引き起こします。また、網膜で循環障害が起きることになりますので、網膜内が水浸しの状態(網膜浮腫)になるのも必発です。

❷網膜中心静脈閉塞症
 網膜中心静脈分枝閉塞が静脈の枝の部分での出血であったのに対し、こちらは本管が詰まってしまう状態です。視神経乳頭部付近で並走する2本の動静脈のうち動脈硬化が起因となり、静脈の血流が途絶し、出血してしまう状態です。静脈の本管が詰まる状態ですので、そこからあふれでた血液で網膜上が焼け野原のようになってしまいます。網膜浮腫も広範囲に広がります。網膜静脈閉塞症のうち、大多数は、分枝閉塞ですが、中にはこのように本管が詰まってしまうことがあります。

●合併症
・硝子体出血
・血管新生緑内障
・網膜剥離

 網膜静脈閉塞症において、閉塞した部位より末梢の毛細血管が破たんすると、そこは血流のない無血管野と呼ばれる状態になります。この部位も血液が運んでくる酸素を必要とするので、血管内皮細胞増殖因子という物質が作られます。これにより、新生血管という新しい血管が形成されます。この新生血管は構造上もろい血管であり、容易に傷つきやすいのです。硝子体中に新生血管が生えていき、そこで破たんすれば硝子体出血を引き起こしますし、新生血管が硝子体と網膜を癒着させることもあり、そこに硝子体側から牽引する刺激が加われば網膜剥離を引き起こすこともあります。また、新生血管が隅角まで回ると(緑内障の項参照)、房水の流れを阻害し緑内障を引き起こすことになります。糖尿病網膜症の合併症と全く同じで新生血管というものが、諸悪の根源になります。

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②症状



❶網膜中心静脈分枝閉塞症
 出血した部位は、網膜まで光が届かなくなるので、その部分の視界が暗くなります。網膜浮腫が、黄斑にかかると視力が低下します。黄斑浮腫の程度がひどいほど、また、長期に及ぶほど視力回復がしづらくなります。出血は、半年から1年くらいかけて少しずつゆっくり引いていきますが、どの程度まで視力が回復するかどうかは黄斑の状態次第になります。

❷網膜中心静脈閉塞症
 網膜全体に出血し、黄斑浮腫もほぼ全例おきますので、視力低下は避けられません。分枝閉塞症よりも重症です。出血はやはり、時間の経過とともに引いていきますが、視力回復はやはり黄斑浮腫の状態や閉塞した血管の再血流の状態によりますが、思うように視力が回復しないことが多い病気です。



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③治療

❶血栓溶解薬、循環改善薬
 まずは、血栓を溶かすような薬や網膜血流の循環を改善させるような薬を用います。これで血流が再開通することが望ましいのですが、現実的には、思うようにいかないことが多いです。

❷抗VEGF薬硝子体注射
 VEGFとは、合併症のところでお話した血管内皮細胞増殖因子の頭文字です。このVEGFを阻害する薬が最近、保険適応として使えるようになりました。このお薬は、新生血管を退縮させる作用があったり、黄斑浮腫を引かせる作用があるため、比較的早期から用いることをお勧めします。医療用の針では、もっとも細い30ゲージという小さな針を使い、ほんの微量の薬剤を硝子体中に注射します。

❸網膜光凝固術(レーザー治療)
 レーザー治療の目的は、新生血管の発生予防です。レーザー治療の意味合いとしては、糖尿病網膜症のレーザー治療と全く同じです。今一度ご参照ください。正常な網膜にレーザーを照射して間引きしてあげることで、網膜の酸素需要量を減らし、新生血管の発生を抑えます。新生血管の発生が抑えられれば、合併症である硝子体出血、血管新生緑内障、網膜剥離を未然に防ぐことができます。
 ただ一つご理解頂きたいのが、このレーザー治療は現状を見やすくするためのものではなく、今後悪化させない、いわば守りの治療になります。正常な網膜を治療するわけですから、見にくくなることはあっても改善することは考えにくいのです。

❹硝子体手術
 硝子体手術は、硝子体出血や網膜剥離などの合併症が起きたときに、目の中を洗ったり網膜を復位させる目的で行う場合と黄斑のむくみを改善させる目的で行います。

❺ステロイド薬注射(テノン嚢下、硝子体)
 黄斑浮腫を引かせるために行います。テノン嚢下注射といって、眼球壁に沿って眼球後方に注射したり、“めだま”に直接、薬を注射したりします。

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